THE SOUL OF ZEZE  -瀬々敬久監督自選作品集- 対談

2010年8月10日~18日  アテネ・フランセ文化センターにて
『ヘヴンズ ストーリー』の公開を記念して瀬々監督自選による特集上映が開催され、
連日、多彩なゲストを招いて対談(鼎談)が行われました。その1部を採録して順次掲載します。 

入江悠 監督富田克也 監督真利子哲也 監督青山真治監督+安井豊氏井土紀州監督アレックス・ツァールテン氏松本健一氏


8月17日 富田克也監督最新作『サウダーヂ』公式ホームページ

『雲の上』'03  『国道20号線』'07


瀬々 今日は富田くんがいっぱい考えてきてくれたんですよね?(笑)

富田 はい(笑)。いろいろと考えてきました。さっそく喋ってもいいですか?

瀬々 どうぞ。

富田  この三作品(『黒い下着の女 雷魚(雷魚)』'97、『汚れた女』'98、『HYSTERIC』'00)の日によんでもらえたのはとても嬉しいです。
『雷魚』はぼくが初めて見た瀬々作品で、とても大きな影響を受けたのでまずはその辺りの話をしようと思います
。当時のぼくは映画美学校の一期生として学校に通うのに並行して、『雲の上』より前の、自分にとって初めての映画を作っていました。
若気の至りもあって、大好きな中上健次や自分自身のことなど、自分のなかにあるごちゃごちゃしたものをなんとか映画にしようと躍起になって
頭のなかでコネくり回している時期でした。そんなときに『雷魚』を見て、すげえ!と思いました。とにかく詰め込むことしか考えていなかった
ぼくの作品にくらべて、いろいろな要素が非常に優れたバランスで渾然一体となったタイトな作りで、そのような「作品の型」とでもいうものを、
なにもわかっていなかった当時のぼくは瀬々さんの作品から教わったんです。とにかく貪るように見ました。
だから『雷魚』や『HYSTERIC』以降がぼくのリアルタイムなのですが、対談に呼ばれることになったので、この特集上映でしか見ることができな
い瀬々作品も含めて見直して、いろいろと考えました(笑)。そして今日上映された『HYSTERIC』を見てあらためて思ったんですけど、
どの作品も『ヘヴンズ ストーリー』に密接に繋がっていると思いましたね。

瀬々 うまいねえ。

富田  いや、これはおべんちゃらとかではないですよ(笑)。『雷魚』の頃は世のなかでバタバタとでかい事件が起こっていたんですが、
当時のぼくは映画を作ってい るという自負もなく、いろんなことがごちゃ混ぜになっていました。そしていま『国道20号線』を作ることになって、
ポスターやチラシに書いたのが「狂気と隣り合わせの日常?そうじゃねえ。日常が狂ってんだ」というキャッチコピーなんです。
だから『ヘヴンズ ストーリー』や特集上映のチラシに書かれた瀬々さんの説明文を読んでなるほどと思いました。
実際の事件を題材にして作品を作るときに当時考えていたことや、時系列でご自身の考えが変わっていく流れが書かれていたので、
やっぱりそうだよなと。『国道20号線』を撮るときに僕が嫌だなと思っていたのは、派手な事件が次々に起こって世間やマスコミの目が
そっちばかりにいって、事件が派手じゃないとひとの興味を引かなくなっているような気がどうしてもしていたんですよ。
だけど、三面記事にしかならないような事件だって次々に起こっているわけで、そういうのってどうなんだと。誰も見向きもせず、
新聞にちょろっと載っただけで勝手な想像をつけて「ああ。あの手のあの事件ね」とかいって片付けてしまうような風潮が嫌でした。
だから『国道20号線』は敢えて三面記事の読み流してしまうような事件を題材にしたんです。……すいません。ぼくばかり喋って。

瀬々  全然いいよ(笑)。富田くんの映画でいいなって思うのは、ジャーナリスティックに調べて話を作るわけではなくて、
友人の話とか自分の周辺に転がっているもので作品を作っているのがいいなと思っていて。それと、ある切迫している状況のなかでそれを
ぶち壊そうとする、破壊衝動が爆発するような感じが昔の昭和プロレスみたいでいいなと(笑)。

富田  うーん。じつは『国道20号線』にたいする年配の方たちの感想で面白かった話があります。おれたちの時代の映画には、
世のなかの腐敗に不平を持った登場人物が最終的に打って出ていくカタルシスがあった。だけど『国道20号線』は、登場人物自体が
腐敗そのもので感情移入できなかった、と。そう言われて、なぜ主人公がバイクで街を去っていくという結末にしかできなかったんだろうと
考えたのですが、作品を撮っていたときは確かに、主人公が世のなかに打って出るということにリアリティが持てなかったんです。たぶん、
最近の映画というかひとの意識自体が、事件を起こした人間の心情とかを、わからなくていい、そもそも無意味だ、意味なんかない、って
放り投げているような気がしていて。主人公が行動を起こすことにリアリティが感じられないのも、ぼく自身そういう考え方がクセになっている
からではないでしょうか。だけど瀬々さんは、そこを突っ込んでいく。『雷魚』はすごく抑制された映画だと思っていましたけど、
見直してみるとかなり突っ込んでいる。今日見た『HYSTERIC』は、もっと突っ込んでいました。そして『ヘヴンズ ストーリー』では、
遂にいくところまでいったという感じがしたんです。ぼくがこういうこと言うのもあれですけど、映画を作るということは何かを考えることだと
思っているんです。だから『ヘヴンズ ストーリー』は、瀬々さんが、自分が置き去りにしてきてしまったものを徹底的に考えてやるぞおれは!
という作品だと思うんです。先日『少年版私慕情 国東 京都 日田』'82 を見たのですが、繋がっていると感じました。この雰囲気が
『ヘヴンズ ストーリー』にはあったぞって。もちろん『雷魚』もあるし『HYSTERIC』もある。それで撮影が二年もの長期に渡ったということになると、
『ヘヴンズ ストーリー』の撮影自体が考える行為そのものだったんじゃないかなと。

瀬々  長期間の撮影だとそうなりますよね。一週間とか限定された期間だとなかなか考えられないですけど、長期間だと考えていける。
一方で、ロケハンとかシナハンというものもありますよね。たとえば『HYSTERIC』は、井土紀州と一緒にシナリオを考えているんだけど、
実際の事件をモチーフにしていたのでモデルにした女性が働いていた岐阜の紡績工場まで行ったのですが、既に廃墟になっていました。
ガス爆発のシーンも出てきますが、実際の事件だと熱海でガス爆発心中を起こそうとしたところで捕まっちゃうんです。
映画は、それ以降二人が捕まらずに生き延びたらどうなるかを考えて話を作りました。この当時は実際に現場に行って、それがダイレクトに
脚本に影響されるとは限らないのだけど、そこで感じられるものを汲み取って作品にしていくということをやっていた。
 
そういう意味では考えつつ作るというクセはついていたと思います。『国道20号線』とかで富田くんがやっていることも、考えるというか、
「自分の場所」というテーマがはっきりしているよね。おれは、場所はいろんなところを使っているわけです。モデルになった事件はあるけど、
実際の場所で撮影しているわけではないので。

富田 ぼくの場合、たまたま自分の映画に出てくれる連中が住んでいる場所が山梨の甲府だというのが一番大きいですね。
連中がそこに住んでいるから、あいつらのところに行って、あいつらの身の回りで起こったことを拾い集めて一つの映画にしていくというの
があるんで。距離も近いからやっぱり甲府に行くかたちになります。ただ、ものすごくそこに拘っているかというと、まあたまたまっていうことの方が
大きいです。だから瀬々さんのようにどこかで自分の興味があることが起これば、ぼくも行くことは辞さないとは思うんですけど。

瀬々 いまはどこに住んでるの?

富田 東京です。

瀬々 いまは東京に住んでいるけど、山梨出身で、仕事でもトラックで「国道20号線」を走っているから『国道20号線』なんだよね?

富田 そうです。

瀬々  そういう意味ではやっぱり「国道20号線」に愛着があるし、鬱屈しているいまの状況には思うところがあるんですよね。
だけど最終的にはヒーロー的な結末が撮れない、というのはすごく現代的なリアリティだと思うんですよ。ぼくも、そのリアリティのなかでどのように
映画を作ったらいいかいつも考えます。でも富田くんの場合、さっきの話だと、あの最後は破壊衝動じゃないんですか?
何度も聞いちゃって申し訳ないのだけれど。

富田  いやいや、完全に破壊衝動です(笑)。それはやっぱりあるんです。ぼくが当時に思っていた印象ですけど、あるときを境に映画の中の
登場人物があんまり喋らなくなってしまった。なにかを内に秘めるというか、そこにはなにもないという虚無を表すためなのか、
登場人物が佇んでいて、それを淡々と映している……。もう、そういうのは嫌だ!と思ったんですね。
『国道20号線』のときに共同脚本の相澤虎之介と話したのは、とにかく登場人物がベラベラ喋る映画にしようぜって。雰囲気や佇まいだけを見せて、世を覆う 意味不明なものに意味なんかないと切り捨て、投げ捨てるようなことはもう辞めようぜ、というのがありました。
だから『HYSTERIC』をひさしぶりに見て、自分のなかで、もう映画が終わっていいよなというポイントが途中いくつかあるんですけど、
まだいくか、まだいくか、瀬々さんまだやるの?という気持ちで見ていたんです。それは、やっぱりやるべきなんですよね。
映画を作ったからって作り手が答えを出せるわけじゃない。けれど、ひたむきに向き合うところが『ヘヴンズ ストーリー』を見たときにすげえなって
思いました。「サイコな事件」として棚にあげられちゃうような犯人のことを、これでもか、これでもか、と突っ込んでいくから。そういう意味では、
自主映画で作ったということも含めて、これは瀬々さんという一人の作家に付き合うことなんだと。それに付き合うのに、4時間38分という時間は
決して長いとは思わなかったですね。

瀬々 ありがとうございます。まあ、おれには付き合わなくてもいいですけど(笑)、役者さんたちが全員素晴らしいので是非見ていただきたいで
す。

(採録:シネ砦集団)


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