THE SOUL OF ZEZE  -瀬々敬久監督自選作品集- 対談

2010年8月10日~18日  アテネ・フランセ文化センターにて
『ヘヴンズ ストーリー』の公開を記念して瀬々監督自選による特集上映が開催され、
連日、多彩なゲストを招いて対談(鼎談)が行われました。その1部を採録して順次掲載します。 

入江悠 監督富田克也 監督真利子哲也 監督青山真治監督+安井豊氏井土紀州監督アレックス・ツァールテン氏 松本健一氏


8月14日 青山真治監督 『EUREKA』’00  『サッド・ヴァケイション』’07)  安井豊氏 (「シネ砦」集団)


このテクストは『少年版私慕情 国東 京都 日田』 '82 の上映直後のトークの採録です。
上記作品は瀬々監督自ら上映しました。


青山
映写、お疲れ様でした。

安井
年齢的な問題で自分で映写するのはこれが限界だと本人も言っているので、みなさん貴重な経験だったと思います。

瀬々
まぁ、でも十年後、還暦になったらやろうかと思います。

安井
マルチスクリーン+ライブ演奏の手法は、どれくらいにまで流行っていたでしょうねぇ。代表的なのは原将人氏の作品がありますが。

瀬々
最 初、原さんの『初国知所之天皇』 '73 って作品がありました。ぼくは大学時代に彼の全作品上映をやったんですが、当時は16mmの2面マルチだった。それを20歳ぐらいのときに見て影響され て、その影響下で作ったのが、今日見てもらった『少年版私慕情 国東 京都 日田』です。

安井
ぼくと瀬々さんは同じ年ですが、わたしはまったく原さんには影響受けませんでしたね。

青山
その後の瀬々さんの活動からは想像できないくらい、才気走ってますね。ひとりでつぶやきを入れたり、4台も映写機を使ったり、上映ごとにア
ドリブ的に変わっていったりと。

瀬々
今日は音と画が合わなかったなぁ。だから、途中で一台の映写機を停めるかってことになって、実際に停めたんです。

青山
才気走りぶりは健在ですね。でも、ぼくの中の瀬々さんは、割と堅牢な作家なんですが。

瀬々
ああ、バランスをとって会社の言うことを聞いて映画をつくるっていうタイプ?(笑)

青山
能ある鷹は爪を隠すんですよ。出自が芸術家肌だったんだってのを思い知らされました。

瀬々
青山くんもギターとかやっているじゃないですか。それも芸術的な営みでしょ。

青山
ちゃらちゃらしてるだけですよ。ぼくとか安井さんは、ポップな人間なんですよ。

安井
あんまり実存に届かない感じだよね。

青山
そういうことですね。

安井
話は戻りますが、聞いてい頂いているお客さんのために、まずこの面子のそれぞれの出会いから話しましょうか。

瀬々/青山 
ええ。

安井
ぼくはアテネでやった「新日本作家主義列伝」という特集上映に関わっていまして、そこで瀬々さんらピンク四天王の連続上映をやったんです
ね。そこで見た瀬々の作品が、同時代的なものであったり、相米慎二的なものであったり、村上春樹的であったりして、やることがなんとなくわかったん
で、それをいちいち瀬々さんに話をしたんですね。そこで急速に親しくなりましたね。

瀬々
そうね。でも、安井くんとは久しぶりですね。青山さんとはよく呑み屋で会うんですけど。

青山
なんで、安井さんが「安井くん」で、おれが「青山さん」なの。

瀬々
呑み屋でしかあってないからか、こんなところで会うと照れくさいのよ(笑)。

青山
ぼくが最初に瀬々さんを目撃したのは、助監督時代かな。ディレクターズ・カンパニーに出入していたときに、瀬々さんが最初の一般映画になるはずだった『チ ン・ドン・ジャン』の打ち合わせをされているときですね。初めて口を聞かせていただいたのは、やはり「新日本作家主義列伝」のときかな。あのときは新宿の 「どん底」に飲みに行きましたね。

安井
その後、青山くんは瀬々さんの作品にも関わるんだよね。

青山
「新日本作家主義列伝」の直後にぼくと井土紀州で『迦楼羅の夢』(『高級ソープテクニック4 悶絶秘儀』の題名で94年に公開)のホンを直しました。

瀬々
羅漢三郎というハッタリつけたクレジットを入れています。

青山
瀬々さんが書くのと、井土が書くのと、ぼくが書くのがまったく違いました。

安井
でも、中上健次ってことでは共通していたんだよね。

青山
その「どん底」で中上的なものを瀬々さんがやりたいって言っていたのかなぁ。じゃあ3人でなにかやろうってホンをつくることに発展していったんだと思います。

安井
出来栄えは如何です?

瀬々
自分が作ったピンク映画の中では1、2を争うぐらい好きな作品で、なかなかそういことはないんだけど、やりたいことがやれた作品だと思っています。

安井
中上的要素についてもう少し聞かせてもらえますか?

青山 
ぼくと瀬々さんの中上的要素は、真逆だなって気がします。だから構えたりせずにバーのカウンターでふたりで呑めるのかと思います。瀬々さんの中上的要素は、現実に起こった事件からネタを持ってくるところですよね。中上でいうと「火祭り」とか・・・

瀬々
ええ。

青山
ぼくは逆になるべくそこを避けて通りたいんです。出来る限りあり得ない物語を作りたいんです。それがいいとか悪いとかではないんですが、ぼくは逃げたんだなぁ、そこから。それは瀬々さんがやるからいいやってことも含めてそれを選択したんだと思います。

瀬々
そうかなー。

青山
ぼ くは『雷魚』(『黒い下着の女 雷魚』 '97) 以降、瀬々さんの作品を見ていないんですよ。それは『雷魚』を見てやばいと思ったからです。このまま見ていたら瀬々さんに影響されてしまうと。逃げようっ て感じです。それが『Helpless』 '96 を作った後ぐらいですね。

安井
瀬々さんが、中上から受け取ったのは実際の事件をネタにするってことなんですか?

瀬々
実際の事件を扱うことが、中上から来てるかどうかはわからないですね。それより「奇蹟」のような有象無象のものを等価に出すという世界観というのは中上に影響されているかな。中上からは通俗的なアプローチよりも、神話的なものを受け取っていると自覚しています。

青山
ぼ くもむしろそっちですよ。神話的というか曼荼羅的な何かを受け取っているかもしれませんね。いろんな広がりを映画の中に取り込みたいなっていう気持ちはあ ります。だから、中上作品のどれかを映画にしろって言われたら「奇蹟」をやりたいですね。海の中のクエをCGで思う存分泳がせてみたい。

安井
瀬々さんの夢の企画は?

瀬々
「奇蹟」は、ぼくも好きです。「日輪の翼」もやりたいと思います。中上の小説では地べたの話、つまり新聞ネタの話や男女の痴話喧嘩が、神話的な話や動植物 の話なんかとごちゃまぜにリンクされていきます。そこが一番魅力的だと思うんですよね。そういうのをピンク映画のときからやろうとは思っていましたね。

安井
一方で、中上っていうと「紀州サーガ」ってのがありますね。青山くんは「北九州サーガ」をつくってますね。瀬々さんも『ヘブンズ ストーリー』では自分の出自を取り扱っていますね。実作と出自との関係っていうのをどう考えているのかしら?

瀬々
出 自ですか・・・。ぼくの作品はどっちかっていうとロード・ムービー的なんですよね。サーガっていうとそこに住む土着の話になるんですが、そこに踏み込む視 点がありません。これは、自分の性質なのか世代の問題なのかわかりませんがそういった視点があまりないんです。青山くんの映画もそういう感じがあると思い ますよ。『Helpless』にしてもうろうろまわっているし、『EUREKA』も後半ある種のロード・ムービーになっているよね。がっつりそこに住みこ んで、その世界観で映画を撮るのが不可能だとどこかで思っているのではないかと思います。

安井
人様に誇れる出自じゃねえぜって感じですか?

瀬々
と いうか、「地の果て 至上の時」っていう中上の作品があるんですが、あれは拠り所が亡くなった後を物語る作品なんですね。ぼくはあれを80年代に読んだんですが、時代的にビ ビッドだったんですね。だから、「サーガ」だけではものたりなくて、それが基盤としていたものが変わってしまった後を、受け止めたいなと思うんですよ。

安井
青山くんは中上の「サーガ」をどう受け止めてるの?

青山
ぼ くの「サーガ」はなんちゃってなんですよね。既に先達がやることやっているので、ぼくのはなんちゃってでいい。その安っぽいものを中上のやっていることと どうやって近づけるか考えています。それと同時に、この安っぽくちゃらちゃらしたものが、これはこれでいいのだって見えるようにもっていきたい。自分には 何も語るべき物語がないってのが前提になっています。瀬々さんも出自たるもの語るに足らずっていうのを同時代的にもっていたと思うんですよね。

安井
それで思い出したけど、60年生まれの血の薄さってので以前、瀬々さんと盛り上がりましたね。語るべき物語をもってないよねぇって。

瀬々
まあ、そうね。出自を描こうと思って映画を撮ろうと思ったんじゃなくて、映画を撮るために出自をでっち上げたってことだと思うんですよ。

安井
瀬々さんは青山くんの作品をチェックしてますか?

瀬々
フルチェックしてますよ(笑)。

安井
どんな感じで見ていました?

瀬々
悩み大きいのかなと。ものすごく新しいところ、青山真治というレッテルも外していきたいというところで悩んでいるなぁと。

青山
もがいてますよ。さっき、ロードムービーに対して定住による神話的世界の構築って話がありましたが、それでいうと『サッド・ヴァケイション』って相当苦し んだんです。出来る限りロードを映さず定住に向かう。そして、その定住の先で弾き飛ばされるっていうありようをやろうとしました。自分にとって息苦しいこ とでしたが、ここで、俺は、これを、やなねばいかんのだ、という気持ちが強かったんですよね。映画をやり始めたときは、何にもよらず映画のみによって映画 を作ってやるんだっていう思いがあったんです。それは先程の実際の事件からネタを探すことを避けるっていうこととつながていると思うんですね。しかしそれ がやがて行き詰まりました。そこで、物語るということそのものが、「定住」を経ないと次に進めないという思いに縛られだした。

瀬々
い ま聞いていて腑に落ちたのは、決して立派な映画を作ろうとしてないなって。本人がもがき苦しんでいる姿がきちんと映画に映っているっていうのが青山くんの 映画の素晴らしさですね。いい映画ではなく、自分なりの何かに突き進んでいる形が見えるのがこちらをビビらせる力だと思います。

安井
オリジナル脚本の映画には確かにその悩みが出ていますが、一方原作ものの青山作品はどうですか?

瀬々
原作ものなんてやってたっけ?

青山
いまをときめく、東野圭吾原作やってんですよ。

瀬々
すまん、見てないや。フルチェックって言ったの、撤回します(笑)。

青山
『レイクサイド マーダーケース』 '04 です。あれも定住の話です。

安井
瀬々さんは近年雇われ仕事をよくやっていますね。とてもクリアな作品で驚いています。

瀬々
クリアって?

安井
悩まない。

青山
職人っていうか。

瀬々
ビッ グ・バジェットの映画の場合は、みんなでつくるんだっていう意識で取り組んでる。様々な人間にいろんな意見がある。ただ、全員いい映画を作りたいんだとい う意識は同じです。で、打ち合わせの時間というのがかなりになる。だから、でかい複合ビルディングをつくるんだっていう気持ちです。一軒の家ではなく、ビ ルをつくるのが楽しいんだってやっています。

安井
ビルをつくるっていう感覚は青山くんにはある?

青山
ありますよ。おれにビル、作らせてくれよ。何本でも立てるぞー(笑)。

安井
スカイツリーなみのをやりますか。

瀬々
北九州にビルを建てたら(笑)。

青山
誰も頼んでこないので、小説の中でビルを建てています。

安井
小さなお家は沢山つくっていますよね。

青山
去年もライヴビデオをふたつつくりました。家というよりテントみたいなもんです。

安井
瀬々さんは、ビル作りとは対極に、今回の『ヘヴンズ ストーリー』ではゼロから自分で映画を立ち上げました。そのきっかけは?

瀬々
あ えて言うなら、自主映画をつくりたかったということかなー。ただ、ビルの建設現場での鬱憤があったから一軒家にとりかかったわけではないんです。このプロ ジェクトは2006年に始まっているので、ビル作りより前なんで。そのころぼくは46歳でしたが、なにか違うやり方で映画を作りたいと思ったんです。

安井
今回のストーリー作りはどのように行ったのですか?青山ガールズ(映画美学校で行われていた青山ゼミの女性メンバー)のひとりである佐藤有記がシナリオを書いていますね。瀬々×井土コンビと瀬々×佐藤コンビとの違いってあるのかしら?

瀬々
井 土は骨格がないと一行も書けないんで、井土とやるときは骨格づくりから始めます。佐藤有記は骨格など決まっていなくてもどんどん書けるんですよ。ラストな んか決まっていなくても書いてくる。今回はぼくがプロットを書いてそれを脚本にしてくれって頼んだんですが、そのときもオーラスは決まっていなかったんで す。ぼくもケツが決まっていずに、進みだす方なんで、章立ての構成だけはこちらで提案してあとは自由にやってくれって投げたんです

安井
『EUREKA』を見なおしたりしましたか?

瀬々
いやまったく。

安井
じゃあ、キェシロフスキ?

瀬々
『デカローグ』 '88 は意識しましたね。

安井
青山くんは『ヘヴンズ ストーリー』どうでした?

青山
ごめんなさい見てないです。今回は『雷魚』以降見ていないというスタンスで参加しようと思っていたので、このトークが終わったら見ます。応援メッセージはツイッターでします。

瀬々
今日はメンバー悪かったなぁ(笑)。

青山
安井さんは『ヘヴンズ ストーリー』は如何でした?

安井
瀬 々さんの事件ものって、薄い物語性を事件で補おうっていう努力が見えてしまうんで、ちょっと距離がありますね。それより『ドッグ・スター』(『DOG STAR ドッグ・スター』 '02)とか『泪壺』 '08 とかの方が、瀬々さんのポップな部分が出て風通しがいいんですよ。

青山
それで、『ヘヴンズ ストーリー』は?

瀬 
つまんなかったんだろ(笑)。ホントは?

安井
い やいや、とっても気合の入った作品でした。なんでこんなに血の薄い瀬々さんが、一生懸命濃い物語を作っているのかなぁって思いました。時間は長いけど、 やっぱり薄いね。中身のことじゃないですよ。肌触りが薄い。今どきの映画のように叫んだ り泣きわめいたりしてない。ぼくの中に、世界に関わりをもとうとする志をもった映画の長尺版っていう括りがあって、その2000年版が『EUREKA』で す。その10年後に同じ志を持った『へヴンズ ストーリー』が出てきたことに歴史を感じています。また、同じ志で2000年『EUREKA』の翌年の2001年に『リリイ・シュシュのすべて』ってのが ありました。2010年『ヘヴンズ ストーリー』の翌年の2011年にもう一本なにか出来てくるんじゃないかなぁと予感しています。

(採録:「シネ砦」集団)


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